申請者らは脳内で重要な役割りを果たす神経栄養因子の一つであるBDNFが、白血病細胞株から恒常的に産生されていることを見出し、初年度ではBDNFによる制御性T細胞の誘導をフローサイトメーターおよびウエスタンブロットにより確認した。また制御性T細胞のマーカーであるFoxp3の誘導にはNF-ATおよびRhoAの関与が示唆された。本年度は次のことが明らかになった。 1.活性化CD4陽性細胞はBDNFの受容体であるTrkBを強発現する BDNFの受容体であるTrkBの発現をウエスタンブロットで解析したところ、薬剤で誘導したマクロファージ、活性化CD4陽性T細胞においてTrkBの発現が認められた。 2.BDNFは脾臓細胞、ヒト末梢血細胞の活性化を抑制する 刺激されたマウス脾臓細胞およびヒト末梢血細胞の増殖反応をBDNFは抑制した。 3.ヒト末梢血細胞由来のIL-12産生をBDNFは抑制する ヒト末梢血細胞を健常者から調製し、LPSで刺激し、12時間後の培養上清中のサイトカイン量を解析したところ、IL-12産生をBDNFは抑制した。 4.BDNFはConA誘導のFoxp3発現を増強する ConA自身もFoxp3を誘導するが、BDNFはさらにその発現を増強した。その際、ConAで誘導されるIL-2産生にはBDNFは影響を及ぼさなかった。 5.BDNF誘導制御性T細胞はT細胞活性化に抑制効果を持つ 制御性T細胞としてBDNFで48時間処理したCD4細胞を調製し、T細胞応答を増殖反応で評価したところ、BDNFで誘導された制御性T細胞が抑制効果を持つことが示された。 以上より、白血病細胞から産生されるBDNFは、免疫システムに対し抑制作用を持つ制御性T細胞およびその受容体を誘導し、白血病細胞増殖の環境に影響を与えている可能性が示唆された。
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