本研究は、ヒト免疫難病に対して実用化された生物学的製剤による治療-TNFα阻害療法とIL-6阻害療法-の詳細な作用メカニズムを、免疫疾患モデル動物の解析を通じて明らかにすることを目的として行う。具体的な動物モデルとしてクローン病モデルマウスと顕微鏡的多発血管炎(MPA)モデルマウスを作製し、ヒトと同様の治療を行うことで、各疾患病態がどのように修飾・改善するのかを分子生物学的に解析する。 クローン病モデル(T cell transfer colitis)に関しては、抗TNFα抗体と抗IL-6受容体抗体がいずれも著明な有効性を示したのに対し、decoy型可溶性TNF受容体(TNFR-Fc)はまったく効果を示さなかった。これは臨床研究で報告された結果に一致するものであった。われわれは、有効性を示す前2者の抗体のみが病原性ヘルパーT細胞の増殖を阻害することを明らかにした。さらに、クローン病モデルの病態にIFN-γとIL-17の両エフェクターサイトカインが関与し、さらにそれ以外のサイトカインが一部関与することを示した。また、抗IL-6受容体抗体のみが、IL-17産生細胞(Th17)の出現を抑制すると同時に免疫制御性T細胞(Treg)の出現を促進することを見出した。上記の結果は、製剤間に作用メカニズムの違いが存在することを示しており、臨床における生物学的製剤選択の指針を検討する上で重要な知見であると考える。 MPAモデルマウス作製に関しては、MPO欠損マウスの入手と繁殖が終了し、モデル動物作製実験と腎機能障害や肺病変など血管炎の評価系を確立する実験が進行中である。現時点においてMPAは生物学的製剤による治療の対象とはなっていないが、本研究から得られる知見はその有効性を検討する上で非常に有意義であると期待される。
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