研究概要 |
我々は、β1インテグリン刺激により、majorにチロシンリン酸化される細胞内蛋白質として、Cas-Lを同定しクローニングした。その塩基配列の解析により、SH3,SD,SR,CC,HLHを中心とする複数のドメインからなり、Casファミリーに属するスキャフォールドとして機能する事を明らかにした。Cas-Lノックアウトマウスは、共同研究者である瀬尾・黒川らにより樹立され、メンデルの法則の期待値通りに外観上正常に生まれてくる一方、リンパ節において、marginal zone B cellを欠き、T, B cellのケモカインに対する遊走能、インテグリンリガンドに対する接着能の低下を認めた。我々はこのノックアウトマウスを用いて、コラーゲン関節炎モデル、シトロバクター大腸炎モデルの解析を行い、以下のような結果を得た。即ち、コラーゲン関節炎において、Cas-Lノックアウトマウスは、野生型マウスに比して、関節炎の肉眼的スコア、病理組織学的スコアの低値、血清中の炎症性サイトカィン(IL-17,IL-1beta,etc.)の低値と、抑制性サイトカインIL-10の高値を認めた。また、in vitroでのリンパ節細胞由来リンパ球を用いたコラーゲン再刺激実験において、Cas-L-/-マウスの増殖反応の相対的な低下を認めた。現在、このマウスコラーゲン関節炎軽症化のメカニズムの解析を、骨髄キメラの作製を通じて行っている。一方、シトロバクター大腸炎モデルにおいては、Cas-L-/-マウスにおける下痢、体重減少、敗血症(脾・肝膿瘍)の悪化、病理組織像における炎症像の悪化、炎症性サイトカイン(IL-6,TNF-alpha)の上昇を認めた。我々は、このような両モデル間で一見逆に見えるCas-L-/-マウスの挙動に対して、マイクロアレイ解析を援用しながらさらに探求を進めている。
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