分子生物学的手法により微生物を検出する方法を用いた環境や生態の細菌巣の解析で、通常の培養可能な微生物の何倍もの培養不能な微生物が存在していることが判明している。病院という特殊な環境においてこの方法を利用し、感染症および感染制御に有用な新たな情報を得ることを目的とする。環境中の検体からのDNA抽出の確実性、再現性が不安定であったので、再度方法論を含めて検討し生理食塩水もしくは滅菌水に浸した無菌綿棒を用いて検体を採取した後にDNA抽出をおこなったところ、安定した結果を得ることが可能になった。そこで、薬剤耐性菌が分離された病院内の部署を対象に環境調査を行う際に、通常の一般細菌培養と同時に分子生物学的微生物同定法で比較検討した。16SrRNA遺伝子を標的としたuniversal primerを用いてPCRを施行し、増幅した16SrRNA遺伝子断片をTOPO TAクローニングキットを用いて大腸菌にクローニングした後、シークエンスを決定しGenBank等のデータベースにて相同性を比較し菌種同定を行った。病院環境への応用として施行した、多剤耐性緑膿菌が分離されたICUの検討では、培養法および分子生物学的法のいずれでも同菌は分離されなかった。一方、アシネトバクター属が分離された病棟の環境調査では、人工呼吸器管理の患者の挿管チューブの周囲から、培養法と分子生物学的検討ともにアシネトバクター属が同定されたが、両方で分離場所が異なっており相互に補完する結果となった。分離率は分子生物学的方法がやや高く感度が高い検査であることが推測されたが、薬剤耐性度が不明であり患者から分離された菌株との一致性は判定できず今後の検討が必要である。
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