研究概要 |
1.我が国では近年、新興リケッチア感染症・日本紅斑熱の報告数が急増し、発生地域の広がりも認められる。2009年には新型の紅斑熱群リケッチア症としてRickettssia heilongjiangensis感染症の存在も明らかになった。日本紅斑熱の治療としては、テトラサイクリン系薬剤に加えニューキノロン系薬剤併用が有効である例が報告され、つつが虫病との最大の相違点として認識される。 2.これまでに臨床所見を確認し得た日本紅斑熱(23例)において、重症度を従来より用いている重症度スコア(Iwasaki et al, J Clin Microbiol, 1997)をもとに比較した。10例(43.5%)が、重症度2以上に相当し、従来調査したつつが虫病より重症度が高いことが示された。また重症度を2以上(重症群)と2未満(軽症群)に分け比較すると、急性期の血中TNF-α濃度は有意に重症群が高く、TNF-αが重症度を示す指標となりうることが示唆された。 3.in vitro実験系において、minocycline(MINO)およびdoxycyline(DOXY)が単球系細胞(THP-1)において、サイトカイン(TNF-α,IL-12p40)およびケモカイン(IL-8,IP-10,MCP-1,MIP-1α,MIP-1β)の産生を濃度依存性に抑制することが示された。日本紅斑熱においてもテトラサイクリンの有する、宿主側のサイトカイン産生を制御し、過剰な生体防御反応を抑止することが推測された。しかし、臨床的にはテトラサイクリン単剤の有効性が低いことが指摘され、ニューキノロン系薬剤の併用が必要であることが報告された。この点について、実験系でMINO+ofloxacin(OFLX)によるTNF-α産生に与える影響を検討したが、OFLXによる相乗的な抑制効果は確認できなかったことより、併用効果は抗リケッチア活性の直接的な増強によることが推測された。
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