研究概要 |
米国では強毒型の市中感染型MRSAが蔓延し臨床的に大きな問題になっているが、我が国での実態は明らかにされていなかった。我が国全体の実態を明らかにするためには全国16施設からMRSAを収集し、我が国で初めてとなる市中感染型MRSAの多施設共同調査を実施した。MRSA857株について薬剤感受性および遺伝子解析を行った。遺伝子解析は、の概略は以下の3点である。1.MRSAを検出する遺伝子として、nuc(nuclease)、mecA(耐性遺伝子)を用いた。2.SCCmec型については、3つのプライマーセットを設計し、組み合わせでI,II,III,IVならびにVなどのタイプを判定した。3.病原因子については、市中感染型MRSAに特徴となるPVL(Panton-Valentine Leucocidin)、ETB(exfoliative toxin type b)に加え、院内感染型が保有するTSST-1(toxic shock syndrome toxin 1, sec(enterotoxin type c)を検出した。 市中感染型の薬剤感受性は米国と類似する傾向がみられ、β-ラクタム系抗菌薬以外には感受性が保たれていた。米国で市中感染型の判定基準とされる遺伝子タイプSCCmecIV型は我が国ではそれほど高い頻度ではなく、我が国の判定基準とするにはさらなる検討が必要と思われた。また、毒素産生性も大きく異なり、我が国ではPVLを産生する強毒株は少なかった。PVL産生株が少ないことが我が国で市中感染型MRSA感染症の重症例が少ない理由と予想された。このように我が国と米国の現状とは大きな隔たりがあり、我が国独自の診療体制や予防対策の確立が求められる。市中感染型MRSAの蔓延を抑止するためには、今後も厳重にサーベイランスを継続的に実施していく必要がある。
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