平成21年度はPWSとASとの体系的な遺伝学的解析を更に発展させ、臨床的にPWSやASが疑われたが、遺伝学的に診断に至らなかった例の解析を行った。これまでにPWSやASと似ていると報告された候補遺伝子解析としてPWSについては14番染色体片親性ダイソミー解析、ASについてはSLC9A6遺伝子解析を行った。その結果、6例の14番染色体母性片親性ダイソミーをPWS様表現型のなかに同定し、SLC9A6遺伝子変異を1例AS様表現型のなかに同定した。さらに、網羅的解析としてオリゴアレイ解析を行い、複数の染色体微細欠失・重複症例を同定し、解析中である。これらの結果はPWSやASの表現型に関与する遺伝子や染色体領域を明らかにすることにより、発症機構の解明に寄与すると考えている。 中枢神経機能解析としては、新たに脳磁図による周波数解析の手法を確立し、てんかん患者においてその有用性を明らかにした。周波数解析によりこれまで解析できなかった、発作間欠時脳波や発作時脳波の解析が可能となり、ASにおけるてんかんの発症機構を解析するための基礎データを得ることができた。 さらに、ASにおける感覚誘発電位解析を推進し、ASにおける感覚誘発磁場波形の以上は皮質における反応の障害であることを明らかにした。最近、ASにおける中枢神経障害の基盤がグルタミン酸興奮系の障害を介した、経験依存性シナプス形成障害であることが報告されている。私たちのこれまでの解析ではGABA抑制系の関与が重要である所見を得ている。したがって、この皮質反応の障害の基盤がGABA系にあるのか、それともグルタミン酸興奮系にあるのかを今後追求して行く予定である。
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