本研究者は、ヒトの生体制御において一酸化窒素(NO)をとりまくL-arginine/NO合成酵素/NO系とPRMT/asymmetric dimethylarginine(ADMA:内因性のNO合成阻害因子)/DDAH系の相互作用が重要であるという仮説を持っている。これらの系を追究することは、複雑な生体ネットワークの生物学的理解をさらに進めるだけでなく、多様な疾患群の予防・治療、身体機能維持、QOL向上を目指した新規の低侵襲的で効果的な管理法の開発につながると考えられる。以下に本年度の研究成果を示す。 (1)シトリン欠損症を有しているが見かけ上健常な患者では、対照と比べて血中NO、ADMAに差はないが、血中コレステロールが高く、酸化型LDLなどの酸化ストレスマーカーが高かった。乳児期以降のsilent phaseでも脂肪代謝障害、酸化ストレス亢進が存在することが示されたが、それが成人期の肝障害・脳障害の形での再発症と関連すると思われた。(2)先天性肝内門脈-体静脈シャントの患者では、血中ADMA、endothelin-1が高く、血中NOが低く、血中TBARSなどの酸化ストレスマーカーが高かった。シャント率は血中ADMA、ADMA/NO比と正の相関を示した。門脈-静脈シャント自体がNO-ADMA系でのADMA優位、酸化ストレス亢進をもたらすこと、肝臓がレドックス制御の重要臓器であることが示唆された。(3)川崎病では血中ADMA、NOともに高値を示したが、それは急性血管炎症候群の1つの特徴と思われた。以上はすべて過去に報告のない知見である。さらに、(4)NO-ADMA系が動物種を超えた生体システムであることを利用して、シトリン欠損症、急性腎不全の動物モデルでこれらのマーカーを計測して複雑な病態を解明し、効果的予防・治療法を開発するための実験研究を開始した。
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