本研究は先天代謝異常症において発熱に伴い発症、重症化する現象のメカニズムを解明して、治療ならびに予防法を開発することを目的にしている。申請者は脂肪酸β酸化やコレステロール合成など脂質代謝を中心に生体に重要な代謝機能を有しているペルオキシソームの形成異常症患者細胞において、培養温度によりペルオキシソームの生合成や代謝機能が正常化する温度感受性現象を遺伝子レベルで明らかにしている。初年度はこの温度感受性現象を有する患者細胞を用いて、以下の研究成果を得ている。 1.温度により代謝機能が回復する前後の遺伝子発現変化の網羅的解析 低温下にて代謝機能が正常化する前後の細胞より抽出したRNAをCy3、Cy5でラベル化し、発現量が変動した転写産物を網羅的にマイクロアレイ解析にて抽出し、さらにコントロールの細胞でも温度変化により発現が同様に変動したプローブを除外した結果、低温下で代謝機能が回復することに伴いdown regulateした88個の遺伝子を抽出した。22年度は抽出した遺伝子の変動をリアルタイムPCRで確認するとともに、変動した各遺伝子の代謝パスウェイ上での関連について解析する。 2.温度により代謝機能が回復する前後のタンパク発現変化の網羅的解析 1と同様の条件にて抽出したタンパクを2次元電気泳動して比較解析することにより、代謝機能が回復することに伴い、2倍以上発現が低下した31個のスポットを特定した。22年度はこのうちの5つのスポットを切り出してMALDI-TOF MSにて同定し、1の遺伝子発現データと照合する。 以上の解析結果をもとに温度感受性により代謝機能を回復させる複数の関連因子を特定し、患者細胞を用いて特定した遺伝子発現を調節することより病態解明から発病・進行度の診断バイオマーカーの開発、さらには治療用化合物のスクリーニングに繋げていく。
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