研究課題
早老症は、老化が異常に早期からおこり急速に進行する大変稀な病態である。若年期より動脈硬化や皮膚の老化を呈し、脂肪萎縮、骨格形成異常や成長障害の合併もみられる。飛躍的に医療が進歩した現代においてもヒトの生理的な老化に対する根本的治療法は存在しない状況であるが、病的状態である早老症の発症機序や病態を究明することは、老化に対する新規治療法開発に向けて意義のある研究である。申請者らは現在小児科でフォロー中の早老症の日本人小児4例(2家系)に対して、以下の検討を行った。(1)早老症の一種でラミン代謝異常による疾患(ラミノパチー)の下顎先端異形成症(mandibuloacral dysplasia、以下MAD)では、ラミンAのプロセッシングが障害され中間代謝物であるファルネシル化プレラミンAが蓄積することで、核の形態と機能に異常を来たすと考えられている。海外では早老症の治療薬としてファルネシル化阻害剤の投与(治験)がおこなわれているが、ラミン代謝の代償経路としてgeranylgeranyltransferase 1によりprelamin Aがprenyl化されるため臨床効果が不十分と言われている。現在我々は、日本において骨粗鬆の治療薬として承認されているaminobisphoshonateを、geranylgeranyl化の抑制による上記代謝経路の阻害による核機能の改善と、破骨細胞機能抑制による骨吸収抑制効果を目的として、早老症の姉妹例(ZMPSTE24の新規遺伝子変異証明ずみ)に継続投与を行い、骨密度、骨代謝マーカー、骨病変および全身症状を経時的に解析した。Aminobisphoshonateによる治療開始後、姉は3年、妹は2年が経過したが、血管病変の出現は認めておらず、皮膚病変や脂肪萎縮は横ばいで、骨密度の改善傾向(治療前は低下傾向、治療開始後より増加)を認めている。(2)progeriaおよびMADで既報の遺伝子変異(LMNAおよびZMPSTE24の遺伝子変異)を認めなかった他の一家系(兄妹例)に関して、大阪大学ヒトゲノム研究の倫理審査の承認を得た後に、埼玉医科大学ゲノム医学研究センターおよび東京大学大学院新領域創成科学研究科との共同研究として、原因遺伝子解明を目的に全ゲノムシークエンス(Exome解析)を行った。このExome解析で同定された候補遺伝子の遺伝子変異を確認するため、患者(兄、妹)と両親の末梢血から抽出されたgenomic DNAを鋳型として直接PCRを行った。両親においてヘテロ接合体変異を認め、二人の患者においてホモ接合体変異を認めた。これらの変異はexome解析で同定された変異と同一で、アミノ酸置換を引き起こすものと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
研究計画にもとづき早老症の原因遺伝子の解析を継続中である。
(1)早老症においてみられる代表的な臨床症状である骨代謝異常と糖脂質代謝異常との関連性が近年報告されているため、臨床データの解析をすすめていく予定である。(2)早老症の兄妹例で同定された遺伝子変異の病的意義を検討するため、変異蛋白の機能解析を今後すすめていく予定である。まず、健常人由来の線維芽細胞よりmRNAを抽出して、それを鋳型としてcDNAを合成し、このcDNAを鋳型としてPCRを行い、線維芽細胞における候補遺伝子の発現を確認する予定である。また、cDNAのクローニングを行い、さらに患者において同定された変異を導入したベクターを作製して、変異蛋白の機能解析を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (2件) 図書 (1件)
別冊日本臨床新領域別症候群シリーズ腎臓症候群(第2版)
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