【研究の目的】 本研究の目的は、ダウン症乳児の約10%にみられる一過性骨髄異常増殖症(TAMを含む乳児急性骨髄球性白血病とダウン症関連骨髄球性白血病(ML-DS)の発症機構を分子生物学的に明らかにすることである。特に、本研究においてはシグナル伝達系に関連する因子に注目し、新たなクラスI遺伝子変異の単離を目指している。 【平成22年度の研究結果】 これまでの研究から、クラス2変異と考えられていた転写因子GATA1の変異が、その発現量のちがいによってクラス1様の活性をもつ可能性が出て来た。この知見は論文(Blood)として発表することができた。この結果をふまえ、さらにGATA1遺伝子の変異と細胞増殖の関連を注意深く検索したところ、これまでに報告がない内部欠損型GATA1因子を発現するTAMの一群が存在することを発見した。 これら新規変異GATA1因子は二種類存在し、いずれもN末端側に存在する転写活性化ドメインの近傍を、43あるいは15アミノ酸残基欠損している。遺伝子変異は2~21塩基の挿入あるいは欠失であるが、いずれもスプラシング異常により、前述のような変異タンパク質を発現する。 このタイプの変異を有する症例はTAM全体の約5%ほどであるが、いずれの症例も初診時白血球数が10万/μLを超えるハイリスク群であり、半数の症例が早期死亡していることが明らかになった。内部欠損型変異GATA1因子は、従来報告のあるN末欠損型GATA1と比較すると転写活性化能が残っていることから、このような機能の差が、疾患の表現型に影響を与えている可能性が高い。本研究は投稿準備中である。
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