近年、T細胞やB細胞による獲得免疫と並んで自然免疫が注目されるようになり、特にToll様受容体(TLR)の発見により、自然免疫の研究が進展し、IRAK4/MyD88欠損症などの自然免疫の異常による先天性免疫不全症が同定されるようになってきた。代表的な抗体産生不全症であるX連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)の原因遺伝子BTKがTLRのシグナル伝達に関連するとの報告があり、私たちもXLA患者由来樹状細胞におけるTLRリガンド刺激を検討したところ、TNF-a産生の低下を見出した。このことはXLAにおける感染症の重症化、特にエンテロウイルス感染症の重症化と関わっていると考察される。XLAにおける易感染性は免疫グロブリン産生低下のみならず、自然免疫の異常も関わっている可能性があり、本研究において抗体産生不全症における自然免疫の異常を明らかとすることを主たる目的としている。 フローサイトメトリーならびに遺伝子解析によってXLAを含めた抗体産生不全症の診断を全国から依頼を受けて継続して行っている。患者家族の同意が得られた場合には骨髄穿刺にて骨髄細胞を採取し、単核球に分離後、CD34+Lin-の造血幹細胞に純化したのちに、免疫不全症NOGマウスに輸注して、無菌環境下で飼育を行う。4か月以上経過し、NOGマウス体内におけるヒト免疫担当細胞の再構築を検討した。XLA患者由来の骨髄細胞を輸注した場合には、末梢血における成熟B細胞が完全に欠損し、血清免疫グロブリンも低値であり、ヒトXLAのモデルとなることが明らかになった。従来からBtk変異マウスやBtkノックアウトマウスがあるが、これらのマウスではB細胞は部分的に存在し、ヒトXLAのモデルとはなりえなかったので、今後はこのヒト化マウスを使って、自然免疫系の異常について検討を行う予定である。
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