近年、Tbll様レセプター(TLR)の発見により、自然免疫の研究が進展し、自然免疫の異常による先天性免疫不全症が同定されている。最近の研究で、X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)の原因遺伝子BTKがTLRのシグナル伝達に関連するとの報告があり、私たちもXLA患者由来の樹状細胞においてTLRリガンド刺激によるTNF-α産生の低下を見出した。抗体産生不全症における易感染性は免疫グロブリン産生低下のみならず、自然免疫の異常が関わっている可能性があり、本研究において抗体産生不全症における自然免疫の異常をさらに明らかにすることを主たる目的とする。 XLA患者においては診断時に約15-20%で好中球減少を認めることが知られ、感染症の重症化に関わっていると考えられているが、その原因はいまだ明らかではない。XLA患者由来の好中球はさまざまな刺激に対して、過剰な活性酸素(Reactive oxygen species: ROS)を産生し、ROSによりアポトーシスに陥る。BTKを欠損した)XLA患者由来好中球にBTK蛋白を導入すると好中球のROS産生やアポトーシスが正常化した。好中球からのROS産生にはNADPHオキシダーゼ複合体の活性化が必要であり、その最初の活性化段階にはMalの膜移行を介してPI(3)キナーゼの活性化が重要とされる。BTKは通常、細胞質内でMalと会合し、Malの膜移行を阻止しており、BTKが欠損するとMalが膜に移行し、PI(3)キナーゼと会合し、NADPHオキシダーゼ複合体が活性化準備状態になっていることが明らかとなった。BTKは軽微な刺激では好中球が活性化しないように負に制御する分子と考えられる。BTKに欠陥があるとさまざまなチロシンキナーゼも活性化し、こられもMalの膜移行に関与していることが明らかとなった。以上の結果から、XLA患者における好中球減少を伴った重症感染症時にはBTK蛋白の導入により、治療介入できる可能性を示唆すると思われる。
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