我々は、Notch 1シグナルの増強により顆粒球の分化が遅延することを報告したが、同シグナルの増強により顆粒球の分化が促進されると報告したグループもあり、この差異を生じた理由の説明と、我々の主張を裏付ける多角的な検討が必要であった。これまで報告されてきた研究では、活性化型Notch 1遺伝子の導入により顆粒球系前駆細胞のNotch 1シグナルを増強させて、分化に与える影響が検討されてきたが、各細胞クローン間の導入遺伝子の発現量のばらつきが結果に影響を与える可能性が示唆されていた。そこで我々は、複数のクローンを含む細胞集団を用いて同様の検討を行った。さらに、ドミナントネガティブMAML1の導入により顆粒球系前駆細胞のNotch 1シグナルを阻害した場合の影響も検討し、Notch 1シグナルが顆粒球の分化を遅延させる方向にはたらくと推察した。これまで報告されてきた研究では、細胞の形態や分化マーカーであるCD11bやGr-1の発現量により顆粒球系の分化段階が評価されてきた。本研究では、これらの評価基準に加えてG-CSF受容体の細胞表面での発現とミエロペロキシダーゼの細胞内の発現を、それぞれフローサイトメトリー法とリアルタイムPCR法で検討し分化段階を評価した。この評価基準でも、Notch 1シグナルの増強により顆粒球への分化が遅延し、阻害により分化が促進する傾向が認められ、これまでの我々のデータを補足する結果であった。これらの新しいデータは、第51回(平成21年)日本小児血液学会で報告した。現在、ドキシサイクリンの添加により活性化型Notch 1遺伝子の発現が誘導される顆粒球系前駆細胞を作成中であり、これを用いてNotch 1シグナルが顆粒球分化に与える影響を検討するとともに、Notch 1シグナルの標的遺伝子を検索する予定である。
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