我々は、疾患特異的iPS細胞を用いた先天性骨髄不全症候群の病態解析のための基盤技術として、正常ヒトiPS細胞からの好中球分化誘導の系を確立した。この技術を用いShwachman-Diamond症候群の病態解析を行うため、まず同様に好中球減少を来す先天性骨髄不全であるHAX1遺伝子異常による先天性好中球減少症の患者iPS細胞を樹立し、好中球へ分化させ、疾患モデルとして有用であるか検討した。HAX1遺伝子異常症の患者より採取した皮膚細胞にレトロウイルスを用いて遺伝子導入し、iPS細胞株を計4株樹立した。これらの細胞は未分化マーカーの発現や多分化能等iPS細胞としての一定の品質水準を満たしており、HAX1遺伝子検査では患者と同じ遺伝子異常を保持していた。次に、我々はこの患者由来iPS細胞と正常人由来iPS細胞を好中球に分化させ、両者の比較を行った。May-Giemsa染色での形態の比較では正常iPS細胞では得られた細胞の40%以上が成熟好中球であったのに対し、患者ips細胞では成熟好中球の割合は10%以下であり、未熟な骨髄球系の細胞が多くを占めていた。これらの細胞の表面マーカー解析では患者iPS細胞由来血球では正常に比べて未熟血球マーカーの陽性率が高く、骨髄球系の分化マーカーの発現が低いという結果であった。また、好中球特殊顆粒の免疫染色では患者iPS細胞由来血球では正常に比較して二次顆粒・三次顆粒の構成成分タンパクの陽性率が低かった。さらに、両者のiPS細胞由来血球のapoptosisの割合を解析したところ、患者iPS細胞由来血球では正常と比較してapoptosisを起こしている細胞の割合が高いことがわかった。これらの結果から、HAX1遺伝子異常症患者由来iPS細胞からの好中球分化系は患者でみられる症状と類似した表現形を示しており、好中球減少を主徴とする先天性骨髄不全であるShwachman-Diamond症候群においても、この解析系が有用であることが示唆された。
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