研究概要 |
白血病や再生不良性貧血などの造血器疾患の根本的治療法として確立された造血細胞移植術は、骨髄移植、臍帯血移植、および末梢血幹細胞移植の総称であり、自己複製能(Self renewal capacity)を有する造血幹細胞を採取して移植する方法である。 小児患者は自分より高齢のドナー細胞を移植されることが多く、自分より暦年齢が高いドナーの造血幹細胞は,非自己組織という新しい環境で自身の細胞年齢をどのように維持できるのであろうか。小児患者に移植された造血幹細胞が移植後数年から数十年の間に造血機能を失うことや、種々のストレス下で加齢(老化)が促進され癌化の頻度が高くなることが懸念される。造血幹細胞の加齢に関する研究はマウスで行われてきた。マウス造血幹細胞で加齢マーカーになりうる指標はテロメア、テロメラーゼ活性、活性酸素種(ROS)の細胞内蓄積、p16^<INK4a> mRNAの増加、などが報告されてきた。 我々はヒト造血幹細胞をCD34陽性細胞やCD133陽性細胞として純化し、ヒト造血細胞移植術によるヒト造血幹細胞の加齢(老化)現象の解明を目指してきた。一連の研究で、ヒト細胞のテロメア長は10歳以降では経年的な変化が小さく単独では造血細胞加齢の指標に利用しにくいこと、ヒト造血幹細胞内に蓄積されるROSは移植によって短期的には変動しないことを確認した。また、マウスで検討されたp16^<INK4a> mRNAはヒト正常造血幹細胞での発現はきわめて微弱で検出が困難であった。これらの結果から、マウス造血幹細胞で証明されている加齢(老化)マーカーはヒト造血幹細胞では指標にならないことが判明した。マウスとヒトの造血幹細胞純化に使用される抗体は異なり、対象となる細胞の分化過程に大きな違いがあることが原因と考えられた。
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