血液凝固第VIII因子(FVIII)は、欠乏では重篤出血(血友病A)を、増加では易血栓を惹起するため、FVIIIを中心とした凝固血栓形成やその抑制機序の解明は、血友病Aの治療戦略や血栓形成病態に応じた抗血栓凝固療法の発展に寄与する。従来の研究は、内因系/外因系/凝固抑制系/線溶系に分け展開してきたが、凝固過程は複数系が同時進行していく概念が最近支持されている。FVIII活性化/不活化機構における線溶系プラスミン(Plm)、外因系(FVIIa)の役割の新知見を得た。(1)Plm:極少量PlmでもFVIII活性を反応初期段階で上昇させ、急速に低下させた。PlmはFVIIIを限定開裂し、同部位を開裂するAPC/FXaよりFVIII活性化/不活化は急峻であった。Arg^<336>/Arg^<372>/Arg^<740>開裂を制御するA2/Plm活性化ドメイン結合はLys結合部位(LBS)非依存性様式が、Lys^<36>開裂を制御するA3/kringlel-3結合はLBS依存性様式が中心であり、FIXaがこの反応を制御していた。Plmは向凝固能も有しており、これにFVIIIが関わることがわかった。(2)FVIIa:FIIaはFVIII活性を凝固初期相の極早期に4-5倍上昇させ、その機序にはArg^<372>/Arg^<740>開裂が関与していた。その際FVIIaはA2と結合し、この活性化はトロンビンより急速であり、VWF存在下でも惹起され、FVIIa-FVIII反応はFVIIa-FX反応と同様に凝固初期相に働きうることを示し、この反応制御に組織因子が必須であった。またFVIIIインヒビター存在下でもFVIIaが作用すること、特に抗C2タイプ1ではFVIIa効果がより持続しやすいこともわかった。一方、後天性血友病Aは先天性に比べ、広範囲出血を呈する。凝血学的モニタリングにより初めて、後天性の凝固機能は先天性より著しく低いことを示した。この抑制機序として、抗FVIII抗体/FVIII複合体がリン脂質膜上でFIXaのFX活性化を間接的に阻害することが示唆された。
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