凝固第VIII因子(FVIII)は、欠乏では重篤出血(血友病A)を、増加では易血栓を惹起するため、FVIIIを中心とした凝固血栓形成や抑制機序の解明は、血友病Aの治療戦略や血栓形成病態に応じた抗血栓凝固療法の発展に寄与する。凝固形成過程は内因系/外因系/凝固抑制系/線溶系が同時に互いに絡み合い進行していく。今回FVIII活性化/不活化機構におけるこれら複数系の役割の新知見を得た。(1)線溶系:PlmがFVIIIを凝固初期相で活性化/不活化するFVIII-線溶系制御軸において、その相互結合様式を初めてmodelingした。この制御軸での生理的機能も全血を用いて以下の事を明らかにした。線溶促進urokinase(uPA)が、向線溶作用と伴に向凝固作用も有し、その機序はuPAにより活性化されたPlmがFVIII/FVを直接活性化することであった。また、uPA阻害tranexamic acid(TXA)が抗線溶に伴生じる向凝固作用を示し、血友病A患者の凝固機能もTXAにより促進されることも示した。(2)外因系:FVIIaは凝固初期相の極早期にFVIII活性を活性化させ、この反応制御に組織因子が必須である。さらにFVIIa作用をより強くかつ長時間維持させるFVIIa analogもFVIIa同様にFVIII活性化させるが、組織因子非依存性であった。(3)FVIIIa-FIXa制御軸:FVIIIC2ドメイン上のFIXa結合部位を初めて同定し、この結合様式での機能は凝固反応のpropagation phaseに強く関与していることを示した。(4)炎症性因子(好中球エラスターゼ)はFVIIIを不活化するものの、一旦活性化されたFmaは不活性化されないなどの生理的意義の一部を初めて明らかにした。(5)FVIII同種または自己抗体(インヒビター)存在下でもFVIIaが作用すること、特に抗C2タイプ1ではFVIIa効果がより持続しやすいことも示した。このことは新たな治療方針の展開をも示唆し得るものであった。(6)後天性血友病Aは先天性に比し、広範囲な重篤出血を呈する。凝血学的モニタリングにより初めて、後天性の凝固機能は先天性より著しく低いことを示した。この抑制機序として、抗FVIII抗体/FVIII複合体がリン脂質膜上でFIXaのFX活性化を間接的に阻害することが示唆された。
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