研究者が開発した常染色体性劣性遺伝形式を取るアトピー性皮膚炎モデルマウスでは出生後8週から10週で掻痒感の激しい皮膚炎を発症し、3週後に血清IgEが上昇するなどのTh2傾向を、20週後にはTh1の活性化も認める。このミュータント皮膚においてキチン質結合活性をもつchitinase3like1(chi3l1)の発現が疾患発症前から亢進していることから、皮膚炎発症におけるこの分子の役割を検討した。表皮で特異的にchi3l1を発現するトランスジェニックマウスを作製したところ、表皮の肥厚などの異常分化を認めたが、皮膚炎症状は現在までのところ認めていない。これとアトピー性皮膚炎マウスとの交配を現在進めている。 一方、表皮環境における微生物の影響を調べるためにアトピー性皮膚炎の表皮での黄色ブドウ球菌のコロニー形成を調べたところ、表皮常在性の黄色ブドウ球菌は発症まではミュータントホモでもヘテロでも野生型でもほとんど認められなかったが、皮膚炎発症後はミュータント皮膚で多数のコロニー形成を認めた。また、皮膚炎を発症していないヘテロ表皮において生後12週令以降から黄色ブドウ球菌のコロニー形成を認めた。次に無菌環境下でミュータントホモを飼育したところ、生後20週までの飼育では皮膚炎を発症しなかった。 以上のことからこのアトピー性皮膚炎モデルでは微生物による刺激が疾患発症に重要であること、病原性細菌が常在しやすい環境を持つことが確認できた。現在、無菌状態とSPF環境での皮膚の常在細菌のアレイ観測を始めており、どの細菌が皮膚炎発症に決定的であるのか、それとChi3l1との関係性についての実験もトランスジェニックマウスを用いて進めている。
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