キチナーゼ様タンパク質Chitinase-3-like-1(以下Chi3l1)は哺乳類体内には存在しない、節足動物や真菌類の持つキチン質を認識するタンパク質である。喘息患者の研究で、喘息患者の気道上皮上でChi3l1発現が亢進していること、血中濃度が上昇していることなどから、アレルギー性疾患との関連性が注目された。研究者らが樹立したアトピー性皮膚炎モデル(Jak1チロシンキナーゼの点突然変異)では表皮バリアの進行性の破壊、皮膚炎の発症が確認できるが、同時に表皮でChi3l1の発現が認められるためにこの分子の皮膚炎発症における役割を解明する目的でChi3l1のトランスジェニック動物を作成してこのミュータントと交配した。交配による症状の変化は現在まで確認できていない。Chi3l1ノックアウトマウスとの交配を現在進めているが作出に至っていない。一方で、皮膚免疫とChi3l1との関連性を見るためにOVAを免疫原として、表皮パッチ、皮内投与、皮下投与の実験時にChi3l1発現がどのように変化するかを検討した。表皮バリアを破壊して行う皮膚パッチ免疫ではTh2に大きくシフトした免疫環境が誘導できるが、この際、表皮細胞でのChi3l1の発現は認められず、真皮のMyeloid系細胞に強い発現が認められた。Th1が優位となる皮内投与では皮下のMyeloid系細胞に発現が認められ、皮下投与では皮膚組織内でのChi3l1発現はほとんど認められなかった。以上のことから、我々の樹立したアトピー性皮膚炎モデルマウスにおけるChi3l1発現はTh2環境の誘導によるものではなくて、Jak1シグナルの活性化により引き起こされる現象であると考えられた。また、このマウスを無菌環境で飼育すると皮膚炎発症率が低下し、掻痒感を認めないこと、コンベンショナル環境では皮膚炎発症前から魚鱗癬様症状が認められるなど、環境の衛生状態に強く左右されることから、環境変化とChi3l1発現との関連性について将来的に検討していく必要があると考えられた。
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