平成23年度は、神経芽腫の予後決定候補遺伝子BMCC1の神経系および神経芽腫における役割を明らかにすることを目的とし、以下の3項目を中心に研究を行い、成果を得た。 1.BCHドメインを中心としたBMCC1の機能解明&2.TrkAの結合を介したBMCC1によるシグナル伝達経路の制御機構の解明 項目1および2から得られた成果を総合し、本年度は、神経分化研究のモデル細胞として知られるPC12細胞(ラット副腎褐色細胞腫由来)を用いて、BMCC1の過剰発現およびノックダウンを行い、神経増殖因子(NGF)添加により誘導される神経分化に及ぼす影響を検討した。その結果、BMCC1過剰発現細胞では神経突起の伸長が抑制され、BMCC1発現抑制細胞では神経突起の伸長が促進されることを発見した。すなわちBMCC1はNGF依存的な神経細胞の分化を負に制御する因子であることを見出した。神経細胞死を促進するBMCC1が細胞分化を抑制するという知見は、NGF依存的な神経細胞の分化と細胞死の制御機構を知る上で、また神経芽腫の自然退縮メカニズムを解明する上で重要である。 3.神経芽腫の発がんモデルマウスとして期待されるBMCC1ノックアウトマウスの解析 ノックアウトマウス作成時に129系統マウス由来のES細胞を使用したため、最も研究に使用されているC57BL/6系統マウスへの戻し交配を行った。また、BMCC1ノックアウトマウスの組織を用いたウエスタンブロット法による解析から、BMCC1の発現がBMCC1+/-マウスで減弱しBMCC1-/-マウスで消滅していることを確認した。BMCC1ノックアウトマウスの樹立は世界で初めてのものである。これまでに幾つかの興味深い表現型が観察されており、神経発生や神経芽腫の形成のみならず個体におけるBMCC1の機能をin vivo解析から明らかにする為の手段として有効である。
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