正常ラット胚の心臓における刺激伝導系のマーカー、特にHNK-1、コネキシン40、43、45、30.2の発現について、妊娠(ED)10.5日、11.5日、12.5日、13.5日、14.5日のWisterラット胚で検討した。HNK-1陽性細胞が集塊をなすのはED13.5日以後で、特に心室中隔後端の房室結節に一致する部位に強い発現が認められた。ED14.5日には発達した心室中隔の左室側と右室側に連続したHNK-1陽性細胞が確認された。この部位に一致してコネキシン40、43、45、30.2の発現が認められたが、心室壁内にも少数の陽性細胞が散在して認められた。しかし、ビスダイアミン投与群では心室中隔の形成が正常より遅く、ED14.5日でHNK-1陽性細胞の発現が認められたが、明らかな集塊の形成は認められなかった。全胚培養したラットでも同様の結果で、ED11.5日や12.5日ではHNK-1陽性細胞は少なく、散在する傾向があった。コネキシン40、43、45、30.2の発現も正常に比べ少なかった。 以上より、ビスダイアミンはHNK-1、及びコネキシン40、43、45、30.2陽性細胞の発現と分布に影響を与えることから、正常な刺激伝導系の発生を発生の早期から阻害することが確認できた。ビスダイアミンが心筋細胞および刺激伝導系の細胞の生理学的特性に与える影響について明らかにすることを次年度の課題としたい。また、この研究の最終目標であるビスダイアミン投与心奇形モデル動物における不整脈発生機序を明らかにするためには、さらに日齢の大きなラットで細胞の生理学的特性の差を検討する必要がある。この場合、ラットよりマウスの方が細胞の単離がしやすい可能性があり、マウスでも検討する予定である。すでに予備研究として、正常新生仔マウスの心筋細胞を用い、カルシウムチャネルの特性について検討を開始した。
|