研究概要 |
平成21年度の研究で、ビスダイアミンは正常な刺激伝導系の発生を早期から阻害することが明らかとなった。今年度はビスダイアミンが刺激伝導系細胞の生理学的特性に与える影響について検討することを目的に研究を開始した。最初に正常ラット新生仔を用いたが、心筋細胞の単離が困難であったため、Langendorff灌流後に心筋細胞を単離する手技が確立しているマウスを用いて実験を行なった。 日齢0、7、14の正常新生仔C57BL/6Jマウスと日齢60の成獣の心臓をLangendorff灌流後に心室の心筋細胞を単離し、Tyrode液で保存した状態でパッチクランプ法により膜電位を測定した。急速活性型遷延整流性カリウムチャネルであるIkrの電位は、日齢0の10.0±1.0pA/pFから成獣では1.0±0.1pA/pFまで、日齢が進むにつれ低下した。また、新生仔ではウエスタンブロットでIkrの発現蛋白であるERGの強い発現が確認されたが、日齢が進むにつれ減少した。同様に、細胞外からのCa^<++>流入の主たる分子実体であるTRPCチャネルの成長に伴う発現の変化についてマウス単離心筋細胞を用いて検討した。TRPCチャネルを介する膜電流(タプシガルギンで誘発される細胞膜電流で代用)の日齢0における電位は5.8±1.2pA/pFであったが、日齢が進むにつれ低下し、成獣では1.8±0.9pA/pFとなった。ウエスタンブロットでTRPC1、3、4,5の発現を検討したところ、成長に伴いいずれの発現も減少した。以上の結果から、心筋細胞の生理学的特性は成長に伴い変化することが明らかになり、ビスダイアミンが与える影響についても成長によって差があることが推測された。 次年度は心筋細胞と刺激伝導系細胞の各々について成長に伴う生理学的特性の変化を明確にし、ビスダイアミンが与える影響と抗不整脈薬の効果について検討したい。
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