私たちはこれまでに妊娠マウス6.5日にレチノイン酸(RA)を投与すると、胎仔に内臓錯位を伴う単心房、単心室、共通房室弁、大血管転位、両大血管右室起始、肺動脈閉鎖などが発症すること、また妊娠マウス8.5日にRAを投与すると大血管転位や両大血管右室起始などの流出路の異常が発症することを報告してきたとくに妊娠8.5日では胎仔に高率に流出路異常が発症するが、実際に二次心臓領域の細胞の分化、分布、移動がどのように変化するのか、どの過程が障害されると両大血管右室起始や完全大血管転位が発症するのか、また流出路の形態形成に関わる遺伝子がどのように変化するのか、などは明らかではない。そこで我々はこれらの結果を踏まえ、RAの投与時期を3時間毎に様々に変化させて発症する心奇形を詳細に診断するとともに、とくにRA9.5日投与心奇形モデルマウスの臓側中胚葉および流出路組織を実態顕微鏡下に摘出し、DNA microarrayやreal-time PCRにより遺伝子発現を対照群と比較検討した。まずRA投与時期を細やかに変化させると、ヒトで見られるような広いスペクトラムの心奇形を発症させることができた。すなわちRAを妊娠6.5日に投与すると右側相同を伴う単心房、単心室、共通房室弁口が、RA6.75日-7.0日投与では左側相同を伴う共通房室弁口が、RA9.0日-9.5日投与では総動脈幹症、大動脈-肺動脈窓、ファロー四徴症、肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損、大動脈離断などの心血管系の異常とともに、胸腺低形成、口蓋裂、兎唇など、ヒトDiGeorge症候群類似の奇形が発症すること、RA10.0日投与では心内奇形は少なく、鎖骨下動脈起始異常などの大動脈弓異常が発症すること、などが明らかになった。次いでRAを9.5日に投与し、10.5日に流出路組織を摘出してDNA microarrayをかけたところ、発現亢進および抑制遺伝子が見られた
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