研究概要 |
本研究では,新しい超音波ドプラ原理に基づく「位相差トラッキング法」により経母体腹壁的に胎児心筋や血管壁の微小振動を高精度計測し,心筋の厚み変化や血管径変化波形から心駆出機能,血圧,末梢血管抵抗などの心循環系機能の評価を行うことを目的としている。初年度は,胎児循環動態ダイナミックに変動する臨床的モデルとして一絨毛膜双胎を対象にして,双胎の両児の心筋厚み変化を実測した。胎児心筋を0.75mmの層に分割して解析したところ,単胎正常胎児では右室壁の心筋壁の厚み変化速度が有意に高かったが,一絨毛膜双胎ではrecipient twinと推定される胎児で心筋の厚み変化速度が低下傾向にあった。また経時的に値が変化することが観察された。一絨毛膜双胎では胎盤のほぼ100%に両児間の血管吻合が存在し,何らかの原因で血液が一方に移動して循環動態のバランスが崩れることがある。Recipient twinに観察された心筋厚み変化速度の低下は,donor twinからの血液の移動による循環負荷,特に心の前負荷の上昇によるものと考えられる。同時に観察された心拍数基線の低下は循環負荷による動脈圧受容体反射機能の関与が推定される。過去に行われた圧カテーテルを用いた動物実験から,血管径変化波形と測定部位における圧波形が相似であることが知られている。さらに一絨毛膜双胎の胎児における血管径変化波形を位相差トラッキングで解析し、両児間でダイナミックに循環が変動することが確認された。母体腹壁から胎児の大動脈脈派波形を記録し、血管径変化波形が胎児心循環機能評価として応用できる可能性が示唆された。
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