スフィンゴ脂質は多様な細胞生物学的活性を有するメディエーターであり、様々な疾患発症過程に重要な役割を担っている。これまでの研究で、スフィンゴ脂質代謝は正常妊娠中に活性化しており、スフィンゴシンキナーゼ活性が低下した雌の遺伝子改変マウスの子宮中の胎児は発育異常をきたし、最終的に流産が引き起こされるがわかっている。しかし、スフィンゴ脂質代謝の異常により流産が起こるメカニズムは明らかではない。昨年度からの研究により、野生型とスフィンゴシンキナーゼ遺伝子改変マウスの妊娠子宮組織を比較検討し、ある一群の炎症に関与するケモカインおよびその受容体の発現が遺伝子改変マウスの子宮組織で著明に増加していることを見出した。この結果に基づいて、ケモカイン受容体やこの受容体を高度に発現している白血球を抗体や阻害剤で抑制する実験をマウスで行った。通常、スフィンゴシンキナーゼ遺伝子改変マウスの子宮内では、胎児は胎生7.5日目頃に死亡するが、この治療により胎児の生存日数が延びてきており、明らかな治療効果が認められている。さらに研究を進め、治療により出産まで到達することを目指す。今年度、得られたデータは非常に新規性の高いものであり、さらに解析を進めることにより、今まで原因不明とされた流産の原因の解明、さらにはその予防や治療に大きく貢献する可能性がある。
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