妊娠初期バルプロ酸(VPA)服用により出生児にみられる自閉症の発現機序を解明するために、VPAの薬理作用の1つであるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害作用に注目し、VPA投与後の胎児脳におけるヒストン修飾と我々が検出した形態学的変化との関連性を解明する。さらに、我々が確立した出生児脳のネットワーク検出法を用いて、胎生期VPA投与後のラット新生児期の神経回路への影響を検討し、胎生期VPA投与による胎児脳のピストン修飾と生後の機能障害の発現を、胎児脳および新生児脳観察から解明することを目的とする。 今年度は、(1) 胎生期VPA投与により胎児脳に発現するヒストン修飾の分布・局在、発現量の解析を行った。HDAC1、アセチル化ヒストン3(H3)、アセチル化ヒストン4(H4)蛋白を指標として、胎齢16日の胎児脳の全領域の免疫組織染色を行い、VPA投与によるヒストン修飾の発現・分布を調べた。その結果、H3およびH4の発現はVPA群と対照群とでは顕著な差は形態学的観察では差は認められず、胎児脳の全領域に発現していることを確認した。(2) 我々が検出した形態学的変化では、中脳-後脳境界部を統御する転写因子の発現異常が予測されたことから、この境界部のTHおよび5-HT分布を統御している代表的な転写因子であるGtx2およびOtx2の発現分布を調べるためにこれらのプローブを作製した。VPAがこれらの転写因子の発現に影響を及ぼしているかを現在、検討中である。
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