平成23年度は、前年度に作成したotx-2およびgtx-2の2種のプローブを用いて、胎児脳におけるこれらの転写因子の発現をRT-PCRにて確認した。その結果、gtx-2およびotx-2の発現は妊娠16日の胎児脳にて確認された。gtx-2の発現は個体によっては検出できない例もあったことから、条件設定の改良および観察胎齢を増やす(妊娠17日以降)ことで、胎生期の胎児脳におけるgtx-2の発現を確認する必要があると考えられた。妊娠16日の検討では、対照群とVPA投与群との間には2種シグナル発現に明確な差は認められなかった。そこで、妊娠16日の胎児脳におけるISH法の実験条件を確立し組織内分布の確認を開始した。また、Wistar ratおよびF344 ratを用いて、VPA暴露後の胎児脳のDNA array解析を行い、他の転写因子の遺伝子発現について対照群とVPA投与群との比較を開始した。妊娠16日胎児脳では遺伝子量が少なかったために、遺伝子発現量のみで標的遺伝子を選択するのではなく、増減率が顕著なものを選択する必要があると考えられ、現在、解析ソフトを改良している。 新生児脳の神経回路の検討では、胎生期にVPAを暴露した後、生後11日の新生児を20分間親子隔離し、新生児脳のc-Fos蛋白の分布を免疫組織染色法により調べた。室傍核、分界条床核、海馬および青斑核のc-Fos陽性細胞数を調べた結果、青斑核でのみVPA群での有意な陽性細胞数の増加が認められた。この結果は、胎生期VPA暴露により新生児期に既に恐怖性の亢進が起こっていることを示唆している。
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