超早産児の神経学的後遺症として、大脳白質病変に起因する脳性麻痺とともに、最近は、多動や学習障害等の高次脳機能障害が注目されている。しかし、その高次脳機能障害の原因については、依然不明な点が多い。我々は、これまでに超未熟児剖検脳の神経病理学的解析を行った結果、虚血性脳障害を有する超早産児の脳では、白質障害以外に、脳室周囲の神経前駆細胞が傷害されていることを見いだした。超早産児にあたる在胎28週未満の時期は、脳の神経前駆細胞の皮質への移動が終了する直前であり、この時期の傷害がその後の神経細胞の皮質への移動の過程に影響を及ぼし、最終的に大脳皮質の発達を障害し、これが高次脳機能障害の原因の一つになるのではないかと仮説を立てた。そこで、本申請では、この仮説を検証するために、長期生存例を含む超早産児剖検脳の神経病理学的検索と、マウスを用いた周産期脳虚血モデルの構築とその解析を行い、超早産児の神経学的後遺症である高次脳機能障害の病態を明らかにする事を目的とする。 本年度はGFPを追跡マーカーとした子宮内エレクトロポレーションと子宮動脈の一時的結紮を用いたマウスモデルの構築に取り組み、胎児期のモデルマウスにおける虚血性脳障害が、マウスの大脳皮質形成に及ぼす影響について検証した結果、下記の所見を得た。 (1)妊娠後期のメスマウスの子宮動脈の一時的結紮により、胎児期の脳虚血モデルを作製した。出生直後より脳室周囲の神経前駆細胞移動の障害や大脳皮質の神経細胞の細胞死を観察した。 (2)出生後、2週目の胎児期脳虚血モデルマウスの大脳皮質において、層構造の異常と異所性神経細胞の存在を見いだした。これらの所見は、ヒト超早産児剖検脳で見られた所見に類似するものであった。
|