研究概要 |
弘前ヘアレスラット(HHR)はSprague-Dawleyラット(SDR)から自然発生した乏毛ラットである.我々は最近,HHRでは塩基性ヘアケラチン遺伝子Kb21,Kb23,Kb26とKrt2-25などを含む7番染色体の末端領域7q36が80-kbにわたって欠失することを明らかにした.一方,HHRの線維芽細胞は培養を繰り返すと多核の大型細胞に形態が変化し,増殖能が低下することを見出した.今回の研究ではHHRの毛の異常がいかなる機序で生じるか,そしてその異常が線維芽細胞の形態変化や増殖能低下とどう関連するかを明らかにするため,体毛の肉眼的性状を調べるとともに,毛包の構造と毛周期をHE染色や免疫組織化学により顕微鏡学的に検討し,SDRと比較した.その結果,HHRの体毛は屈曲し,SDRの直線状の毛に比べ有意に短く,皮膚の単位面積当りの毛の本数も有意に少なかった.HHRでは,毛包の退行期が早期に始まり,退行期が進行するにつれて毛包の構造が完全に破壊され,リンパ球を主体とする炎症細胞の著明な浸潤が観察された.HHRでは,毛皮質は形成されていたが,髄質が拡大し,内毛根鞘は菲薄化し,毛小皮は欠損していた.SDRではヘアケラチンKb25は,マトリックスと髄質に発現したが,HHRではこうした組織学的部位では発現せず,皮質で発現していた.以上の結果はHHRの毛の成長に障害があり,毛根に存在する線維芽細胞の増殖能低下に起因していることを示唆している.遺伝子学的にみるとHHRの毛の異常は,複数のヘアケラチン遺伝子の欠失とその結果生じる融合ケラチン遺伝子の発現によると考えられ,HHRは毛包形成におけるヘアケラチンの役割を解析するモデルとなることが示唆された.
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