研究概要 |
これまで我々は,弘前ヘアレスラット(HHR)皮膚由来線維芽細胞(HHR-DF)を初代培養すると,継代5代目ころから大型の胞体を有する多核の線維芽細胞が大部分を占めることを見出している.さらに,HHR-DFの細胞増殖能は対照のSprague-Dawleyラット(SDR)由来皮膚線維芽綱脚(SDR-DF)に比べて著しく低いことも明らかにした.また、HHR-DFの細胞増殖能に対する各種増殖刺激因子の影響を調べた.5%ウシ胎児血清加 Minimal essential mediumで培養したHHR-DFあるいはSDR-DFを以下の増殖刺激因子すなわちウシ胎児血清(5~20%),フォルボールエステル(PMA),TGF-β,塩基性線維芽細胞増殖因子で刺激し,細胞数を経時的に計測したところ,いずれの刺激によってもSDR-DFは刺激開始48時間で対象に比較して細胞数が1.5倍程度に増加するが,HHR-DFでは対象に比較して細胞数の有意な増加が認められなかった.すなわち,HHR-DFはある種の細胞増殖因子に対する反応性を欠如していると考えられた.さらに、HHR背部皮膚に直径10mmの皮膚欠損を人為的に作成し,創傷部位において欠損部皮膚が再生するまでの治癒過程を組織学的に解析した.皮膚欠損部位に再生する肉芽組織の増殖速度は欠損部位の面積を指標に,また,肉芽組織を覆うように再生する表皮の増殖速度は再生表皮の長さを指標として計測したところ,いずれの指標もSDRに比してHHRにおいて小さい値を示した.したがって、HHRでは皮膚欠損に続いて生じる再生治癒が遅延していることが明らかになった。HHRでは表皮特異的に発現する細胞骨格分子であるケラチンの遺伝子が複数個欠損していることが明らかになっているが、HHRにおける創傷治癒遅延と何らかの関係があるものと思われる。
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