本研究では解剖することなく確認できる腫瘍を安定的に生じるメダカ系統を樹立することを目的としている。確認が容易な悪性黒色腫を形成させるため、色素細胞特異的遺伝子チロシナーゼのプロモーター下流にヒト癌遺伝子hRAS^<G12V>を結合した組換えDNAを作製し、メダカ胚に導入した。昨年度の実験ではhRAS^<G12V>をプロモーター直下に結合した場合はRAS導入メダカが成魚になる前に致死となったため、今年度はCre-loxシステムによる条件発現系を用いて、温度処理をすることによりhRAS^<G12V>が発現するTg-メダカを作製した。得られたRAS導入メダカでは多くの場合、黒色素胞が本来存在する眼球および腹膜とその周囲に腫瘍がみられ、孵化以前から黒色素胞が過形成する個体もあり、受精後3ヵ月では80%以上の成魚が悪性黒色腫を生じた。受精後5ヵ月になると腫瘍死を迎える個体も出現する。チロシナーゼが本来発現している眼球、腹膜での過形成が腫瘍化の起源となっていると考えられるが、個体を固定後、組織切片を作製し、HE染色を行うと、表皮、眼球だけでなく、腎臓、肝臓、脾臓、心臓、消化管、筋肉内、骨周囲、上顎周囲など、多くの組織で腫瘍が見られた。本研究で得られたRAS導入メダカでは、成魚だけでなく稚魚および胚の段階から黒色腫を発症するので、各々の段階で薬剤スクリーニングに使用できる可能性があるが、幼体で可能であれば使用薬剤は少量ですむとことになり、低コストでのスクリーニングが可能である。来年度はRAS導入メダカを薬剤スクリーニングに用いる際の条件検討を行う予定である。
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