申請者は、表皮ケラチノサイトに発現するアクアポリン3(AQP3)の機能について研究を続けている。これまでに、AQP3欠損(AQP3-KO)マウスでは、化学発癌マウスモデルにおいて腫瘍が形成されないこと、創傷モデルで治癒が遅延すること、を見出した。この原因として、AQP3が水およびグリセロール透過を介して、ケラチノサイトの増殖および遊走に関与していることを明らかにしてきた。本研究では、ケラチノサイトの過増殖を伴う皮膚疾患(腫瘍形成、アトピー性皮膚炎、乾癬など)へのAQP3の関与と、その作用機序の解明を目的とした。 平成21年度は、すでに樹立しているAQP3-KOヘアレスマウスを用い、(1)卵白アルブミン(OVA)投与によるアトピー(AD)マウスモデル、(2)紫外線照射による発癌マウスモデルにより、AD発症および腫瘍形成を野生型と比較した。(2)では、AQP3欠損により、AD発症に伴う表皮肥厚と経皮水分蒸散量(TEWL)増加が、野生型と比較して抑制された。AD表皮では、AQP3発現が顕著に増加していた。またAD発症により増加する皮膚のTh2系サイトカイン上昇も、AQP3-KOでは抑制されていた。培養ケラチノサイトを用いた実験からは、AQP3が増加することで、ケラチノサイトの増殖が促進することが示された。これらの結果から、AQP3が、ケラチノサイトの増殖を調節することで、AD発症に関与することが示唆された。(2)は現在継続実施中である。 また、AQP3過剰発現トランスジェニック(AQP3-Tg)マウスの作成にも着手した。ヒト組織からAQP3-cDNAを精製した後、発現プラスミドを構築し、制限酵素処理によりAQP3-DNA断片を調製した。次年度、AQP3-Tgマウスの作出および解析を計画している。
|