研究概要 |
線維芽細胞における上皮-間葉移行機序と皮膚線維化の関連性をin vitroで検討するため,正常マウスより線維芽細胞を採取,培養し,SIP1 siRNAを用いてSIP1発現を低下させた。SIP1ノックダウン線維芽細胞では,I型およびIII型コラーゲンmRNA発現量の低下を認め,更に,コラーゲンを分解するMMP13(matrix metalloproteinase 13)mRNA発現量の上昇を認めた。次に,間葉系細胞に発現するPrx1遺伝子をプロモーターとするCreノックアウトマウスと,SIP1遺伝子にloxPを組み込んだマウスを交配させ,Cre/loxPシステムを利用した間葉系特異的SIP1ノックアウトマウスを作製した。このマウスより皮膚線維芽細胞を採取,培養し,I型およびIII型コラーゲンmRNAの発現量を測定した。その結果,in vitroで得られた結果と同様にI型およびIII型コラーゲンmRNAの発現量は低下しており,MMP13のmRNA発現量が上昇していた。これらの結果より,SIP1は上皮-間葉移行機序においてはTGF-β刺激を受けてE-カドヘリンの発現を抑制しているが,皮膚線維化においてはコラーゲン合成を促進していることが示唆された。実際,作製したSIP1ノックアウトマウスはPrx1遺伝子発現部位に一致してSIP1遺伝子が欠如しているが,Prx1遺伝子発現部の皮膚は菲薄して皺壁を形成しており,病理組織学的にも真皮および脂肪織はコントロールに比べて菲薄化していた。同部位に皮膚線維化モデルマウスを作製する際に使用するブレオマイシンを局所注射し,線維化反応とSIP1の関係性を検討した。このノックアウトマウスでは、ブレオマイシンによる実験的強皮症様の皮膚線維化の誘導が抑制された。すなわちこの分子を標的にすることが、強皮症、ケロイドなど皮膚線維化疾患に対する新たな治療法となる可能性が示された。
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