研究概要 |
新環境ストレスをマウスに負荷すると、コルチコステロンの影響とは無関係に、海馬において、その発現量が増加する遺伝子が、これまでの先行研究でわかっていたもの以外に、新たに6種類あることを明らかにした。すなわち、JunB,Sik1,Dusp1,Arc,Egr2とZiclである。これらの遺伝子の海馬における発現量は、新環境ストレスを30分、あるいは60分負荷すると、統計学的有意に増加することを、real-timePCR法によって確かめた。 また、実験動物や人に投与すると、不安、あるいは精神病様症状を引き起こすことが知られている薬物をマウスに投与して、その1時間後に海馬の遺伝子発現量の変化を11種類の遺伝子について調べた。Yohimbine(5mg/kg)は、Fos,Btg2,Cyr61,gem,Sik1,Dusp1,JunBの遺伝子発現量を、mCPP(2mg/kg)はFos,Cyr61の発現量を増加させた。Phencyclidine(7.5mg/kg)は、Fos,Btg2,Cyr61,Nr4a1,Gem,Sik1,Duspl,Arcの発現量を、methamphetamine(2mg/kg)は、Cyr61,gem,Sik1,Dusplの発現量を、それぞれ、増加させたが、DOI(2mg/kg)は、今回調べたいずれの遺伝子の発現量も変化させなかった。 従って、不安およびストレスによって、海馬でその発現量が増加する遺伝子群は、精神病症状を惹起する薬物投与によって発現量が増加する遺伝子群と共通なものが含まれていることがわかった。今後は、こういった遺伝子の薬物反応性の生後発達の影響、解剖学的な詳細な情報、及び各遺伝子の相互関係などの解析によって、不安や精神病症状の分子生物学的機構の解明につながると考えられた。
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