研究概要 |
「ありふれた疾患」の遺伝子レベルでの発症基盤として"multiple rare variants-common disease"仮説が現在注目されている。最近ヒト遺伝子上には多くのコピー数変異(CNV)やコピー数多型(CNP)が存在することがわかり、稀なCNVと精神疾患との関連が注目されている。すなわちmultiple rare variantsの検討には、ゲノムレベルでのリシークエンシング研究に加え、詳細なCNV解析が必要と考えられる。我々は有棘原血球舞踏病(chorea acanthocytosis:ChAc)の病因遺伝子VPS13Aの発見に成功したが、ChAcには統合失調症様の幻覚妄想状態やうつ病などの精神症状の強い例が多い。さらにVPS13A遺伝子の病因変異をテロ接合性に持つ保因者には、うつ症状などの精神症状を示す例を多数認める。今回VPS13A遺伝子のrare variantsもしくはCNVと気分障害の関連を検討した。21年度は85名の気分障害患者を対象としたVPS13Aの上流領域を含めた全エクソン(総計76エクソン)のリシークエンシングに加え72名の気分障害患者へのロングレンジPCR法とTaqman probeを用いた定量的PCR法を組み合わせてCNVを解析した。その結果、VPS13Aのリシークエンシングでは,10種類の新規の非同義的変異と17種類の新規の同義的変異を同定した.その中で,健常者には認められなかった非同義的変異は3種類で,同義的変異は8種類であり,いずれもヘテロ接合性に認められた.VPS13Aのコピー数バリエーション解析では,1名の気分障害患者に,VPS13Aの疾患者変異であるexon60-61欠失変異をヘテロ接合性に認めた.今後はさらに検体数を増やした解析に加えの神経有棘赤血球症病因遺伝子との関連を解析する予定である。
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