研究概要 |
これまでに染色体均衡型相互転座46,XX, t( 3 ; 9)(q13.12 ; q21.31)を持つ統合失調症患者及び同一の転座を持つ息子(失調型パーソナリティ障害)を見出している。2名から作成されたリンパ芽球の解析より、9番染色体上転座点のセントロメア側50kb付近にL-セリンの生合成に必要な酵素の一つであるPSAT1が認められた。染色体構造異常を持つ2名ではmRNAの発現量解析で、PSAT1の転写量が減少していることが見出され、同時に血中レセリン濃度及びグルタミン酸濃度が低下していた。さらに、一般統合失調症患者由来リンパ芽球では、一部にPSAr1の発現が異常に高い群と低い群があることを見出した。こうした結果に引き続き、一般的な統合失調症患者のPSAT1活性、血中L-セリン濃度測定などから、一部統合失調症患者の診断やL-セリン投与などの治療法の開発への手掛かりが得ることを目的に研究を進めている。現在統合失調症患者40名のPSAr1活性、mRNA発現量測定など生物学的な指標の解析を行っており、一部臨床症状との間に関連があることが見出されつつある。また、PSAT1の分子生物学的な機能と疾患発症の関連を詳細に検討する目的での解析も開始している。現在イースト2ハイブリッド法を用いてPSAT1の酵素活性を調節する分子の検索を行っているが、成人の中枢神経で発現しているmRNAを標的とした検索では.相互作用のある遺伝子は見出されなかった。現在ヒト胎児脳で発現しているmRNAを対象として、PSAT1タンパクと相互作用をする遺伝子の検索を行っている。 こうした研究の進展は、統合失調症の分子病態解明から診断や治療法の開発へつながってゆくことが期待され、疾患克服につながるという意義があり、重要なものであると考えられる
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