研究概要 |
うつ病罹患者と休職者の増加に伴い、復職支援の重要性が高まっており、リワークプログラムの取り組みが全国的に少しずつ実践され始めている。しかし、その内容や評価については標準化されておらず、効果に関する実証的研究はこれまでほとんどない。われわれは、うつ病患者に対し多職種チームによる12週間の復職支援プログラムを実施し、その有効性と転帰の予測因子について検討した。プログラムは、復職準備性の改善と復職可能性の評価、および再発予防を目的とし、作業療法と集団認知行動療法(CBGT)で構成した。プログラム前後に種々の質問紙と心理検査の他、数種類の認知機能検査を施行し、その変化及び臨床的転帰について検討した。 プログラム完遂者のうち単極性の大うつ病28例について解析したところ,施行前後で抑うつ症状(HAM-D, BDI)、認知スタイル(ATQ, JIBT-20)、自覚的QOL(SF36v2の「活力」、「精神の日常役割機能(精神)」、「心の健康」)が有意に改善していた。また、認知機能において異常がみられた機能領域のうち、特に実行機能、処理速度、言語記憶の効果量はそれぞれ0.41,0.37,0.40と中等度の効果が得られていた。プログラム終了後、追跡可能であった29例のうち1年以内に21名(72%)が復職を果たし、終了後1年間の再発・再燃は5例(17%)であった。また、6ヶ月以内に復職し半年間再発の無い転帰良好群では、プログラム終了時の実行機能が有意に高成績だった。さらに、CBGTの治療反応性を予測する因子について、ロジスティック回帰分析を行ったところ、言語記憶検査がオッズ比3.26[1.27-8.40]と有意だった。 これらのことから、復職支援プログラムは、症状や社会的転帰の改善のみならず、認知リハビリテーションとしても有効な可能性が考えられた。また、復職準備性の評価と転帰の予測、心理療法に対する治療反応性の予測に神経心理学的認知機能検査のいくつかが有用であることが示唆された。
|