研究概要 |
アルツハイマー病(AD)の神経細胞変性の機序を解明するため、神経伝達系関連蛋白質の変化について検討した。剖検脳の海馬を用いたセロトニン1A受容体抗体の発現に関する検討から、AD海馬においてセロトニン1A受容体の発現は、海馬病変が高度に至るまで比較的保たれることが示唆された。しかしながら、高度のADではセロトニン1A受容体は著明に減少した。さらにセロトニン1A受容体の低下と神経原線維変化形成との関連を検討したところ、その両者に関連は見られず、神経原線維変化の形成はセロトニン1A受容体の発現に影響しないことが示唆された。一方セロトニン1A受容体の発現は神経細胞の減少と関連していた。これまでAD患者にPETを用いてセロトニン1A受容体の発現を検討した報告がいくつかあるが、本研究結果からPETでのセロトニン1A受容体の減少は、神経細胞脱落を反映している可能性が推察された。この研究結果については、現在投稿準備中である。 さらに今回Dopamine and cyclic AMP-regulated phosphoprotein, relative molecular mass 32,000(DARPP-32)という、ドパミン、グルタミン酸、GABA伝達系など多くの神経伝達系の機能を調節している蛋白質についてAD海馬を用いて検討した。その結果、AD脳ではグリア細胞におけるDARPP-32の染色性が増強し、さらに神経原線維変化も陽性に染色された。この結果はADの変性過程にDARPP-32が関与することを示唆している。現在さらに詳細な検討を継続している。
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