セロトニン1A受容体は、認知機能に関係するだけではなく、神経可塑性に重要な役割を担っていることが近年明らかになってきた受容体である。したがって、セロトニン1A受容体の変化を検討することは、AD脳における神経細胞の変性機序を検討する上できわめて重要である。そこで本研究ではアルツハイマー病剖検脳海馬におけるセロトニン1A受容体の変化について免疫組織化学的に検討した。 対象は16例のアルツハイマー病患者と、生前、認知機能障害を認めなかった4例の対照群の剖検脳海馬である。海馬の薄切切片を作成し、その上でセロトニン1A受容体の特異抗体を用いて、通常のABC法による免疫染色を行った。対象を、神経原線維変化の出現量や分布によって定めるBraak分類によって分類し、アルツハイマー病変の強さとセロトニン1A受容体の変化の関連を検討した。その結果、対照群(Braak stage I&II)のセロトニン1A受容体の染色性は、CA1やsubiculumのニューロピルで非常に濃く、CA3やCA4では薄かった。CA3および4では少数の非錐体型の神経細胞の細胞体や突起も陽性に染色された。Braak stage III&IVの中等度群では、対照群と比較して染色性に変化は見られなかった。しかしBraak stage V&VIの、海馬に高度に神経原線維変化がみられ大脳皮質にも神経原線維変化がみられる高度群では、およそ半数の例でCA1領域のセロトニン1A受容体の染色性が低下した。この低下は神経細胞減少の程度と一致した。 今回の検討からセロトニン1A受容体はアルツハイマー病変が進行しても比較的保たれることが示唆された。
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