今年度は、ラットを用いた動物実験系において、アルツハイマー病治療薬である塩酸ドネペジルの投与による内分泌系への影響について検討した。ラットへのドネペジル経口投与による中枢神経系のコリナージック神経系(CN)の活性化に伴って、視床下部下垂体副腎皮質系の活性化がおこることを、血中ACTHなどを指標にして確認した。さらに、この視床下部下垂体副腎皮質系の活性化にともなってラットの食餌量の低下がおこることを明らかにした。塩酸ドネペジルの投与により、急性にラットの食餌摂取量は低下する。この食餌摂取低下は、2週間の塩酸ドネペジルの連続投与によって消失し、人間における同薬の副作用に類似したタイムコースをとっていた。この系は塩酸ドネペジルの副作用である食欲不振の動物実験モデルとなると考えられ、今後、同薬の副作用の発症機序を明らかにし、その発生を予防するための研究の基礎を築くことができたと考えられる(文献)。 また、immunotoxinである192IgG-saporin(saporin)をラットの脳室に投与することによる中枢神経系CNの障害モデルを確立しつつある。現在のところ、saporinの脳室投与によって、海馬のCNが破壊されることはすでに確認でき、saporinの濃度とCNの障害程度の関連性について検討中である。さらに、ラットの心電図の心拍変動スペクトル解析による自律神経障害の評価法も確立した。 臨床研究としては、アルツハイマー型認知症患者の心拍変動スペクトル解析による自律神経障害の評価を開始し、臨床的研究の準備を行っているところである。
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