研究課題
昨年度は、パクリタキセル(Px)、フルオロウラシル(5FU)、シクロフォスファミド(CPA)による小胞体ストレス(ERストレス)に関連した神経毒性についての検討をin vitro及びin vivoの系にて行ったが、本年度はこれらの抗がん剤の細胞腫間の毒性比較及び神経毒性の軽減法についての探索を中心に行った。まず乳がん細胞(MCF-7)と培養神経細胞(SH-SY5Y)を用いて、Px,5FU,CPAを使用した細胞毒性を刺激24時間後に目視的およびCytotoxicity detection Kit (Roche)によるLDH assayにて検討した。Px(1μM)では、MCF-7、SY5Yともに細胞障害性を認めたもののMCF-7にて強い傾向を示した。5FUでは、SY5YでMCF-7よりも細胞毒性が強い傾向がみられ25μM以上においてより明確であった。またCPA(50~100μM)では、MCF-7において細胞毒性を示していたものの、SY5Yでは明らかな細胞障害性はみられなかった。乳がん患者に用いられるFEC療法(5FU, epirubicin, CPA)を例にとると、5FU,CPAともに500mg/m^2(体表面積)として同用量を使用するが、今回の実験系での結果は、これら抗がん剤の乳がん細胞へのin vitroでの抗がん作用を示すと同時に、他の抗がん剤より脳内移行がしやすいと報告されている5FU,CPAでは神経毒性に差があり、特に5FUで中枢神経系へのなんらかの神経障害が起こりえる可能性を示唆した。これらの結果を踏まえて、過去2年間で検討した抗がん剤によって引き起こされるERストレスの軽減について主に5FUとPxにおいて検討した。我々は、Bip Inducer Protein X (BIX)がERストレスによる神経細胞死を軽減することを報告しているが、BIXはいまだ臨床現場では使用できない。最近我々はFluvoxamine (Flv)にERストレスを軽減する効果があることを見出しており、このFlvが抗がん剤によるERストレスを軽減できるかについてLDH assayにより検討した。その結果、Px、5FUとも、Flv10~50 mg/mlの範囲でLDH releaseが抑制される傾向を見出した。これらの結果は抗がん剤による神経毒性のメカニズムの一つがERストレスを介していることを示すとともに、実臨床で応用可能な介入法についても示唆した。
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