うつ病患者には自己の認知に関する認知と情動の相互作用に関する前頭前野と前帯状回の機能障害があり、それが自己に対する否定的な認知を生じさせているという仮説を立てた。この仮説を検証するために、本研究では情動価を持つ言語を用いたSRE課題をうつ病患者に実施しfMRIを用いて測定することにより、自己に関する否定的な認知の神経基盤を検討した。 Anderson人格目録(1968)の邦訳から、ポジティブ語80語とネガティブ語80語をSRE課題の刺激として選択し、SRE課題で用いる刺激語以外のポジティブ語24語とネガティブ語24語をSRE課題後の再認課題の妨害語として選択した。課題は以下の条件を行った。自己関連付けポジティブ条件、自己関連付けネガティブ条件、他者関連付けポジティブ条件、他者関連付けネガティブ条件、また、関連付け条件(自己・他者)と視覚的・運動的要素を統制したコントロール条件として、意味定義ポジティブ条件、意味定義ネガティブ条件の6条件であった。自己関連付け条件は、それが自分に当てはまっているかを、「はい」もしくは「いいえ」で判断し、ボタン押しによって反応させた。他者関連付け条件は、小泉首相に当てはまっているかを判断させた。意味定義条件では、形容詞が定義するのが難しいかどうかを、判断させた。各条件は教示文呈示(4s)と5試行と4sのブランクを1ブロックとして、それぞれ4ブロックずつ行った。この課題遂行中の脳活動をfMRIで測定した。 その結果、内側前頭前野と腹側前帯状回の機能異常がうつ病患者のネガティブな自己関連付けと関連することが明らかになった。予備的な結果ではあるが、うつ病において認知行動療法が自己に対するネガティブな認知と関連した脳領域の機能や脳領域間のネットワークの結合性を変容し、抑うつ的情動処理を抑制したと考えられた。
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