研究課題/領域番号 |
21591530
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
松本 眞知子 北海道医療大学, 薬学部, 准教授 (70229574)
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研究分担者 |
富樫 廣子 北海道医療大学, 薬学部, 教授 (20113590)
木村 真一 北海道医療大学, 薬学部, 講師 (90281287)
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キーワード | 脳機能発達 / 幼児期ストレス / 神経可塑性 / 臨界期 / ERK活性 / 恐怖記憶 / セロトニン |
研究概要 |
幼児期の不幸な体験による心的外傷が、不安障害やうつ病などの精神疾患の病態や病因の背景になっている可能性が指摘されている。これらの精神疾患は、情動神経回路である扁桃体-海馬-大脳皮質における階層的情報処理機構の障害あるいは機能不全という側面から捉えることが出来る。本研究は、脳発達臨界期における幼児期ストレスにより、脳内神経回路網の機能的異常が生じ、成長後の恐怖記憶に関わる神経可塑性が変化するとの仮説をもとに、可塑性の変化いわゆるメタ可塑性という新たな視点から恐怖記憶制御機構の解明を試みた。不安・恐怖の行動評価法である文脈的恐怖条件付け試験とこの行動評価に基づいた消去試行を行った結果、ラット幼若期[生後2週齢時:2wFS]に嫌悪刺激(Footshock;FS)を負荷すると、成長後(11-14週齢時)に不安水準の低下が生じ、生後3週齢時のストレス負荷(3wFS)では、消去障害が生じることを明らかにした。すなわち、幼若期ストレス負荷時期には臨界期が存在している可能性が示唆された。2wFSにより生じた不安水準の低下には、扁桃体調節下における海馬CA1領域のシナプス応答変化が関わっていることが明らかになった。一方、3wFSでは消去試行に伴う海馬CA1のシナプス伝達の増強ならびに消去記憶の想起における皮質前頭前野(mPFC)のシナプス増強反応がみられなかった。このシナプス伝達効率の変化は、extracellular signal-related kinase(ERK)のリン酸化(pERK)評価による分子生物学的実験結果からも強く支持された。また消去試行に伴う海馬CA1のシナプス増強はNMDA受容体拮抗薬MK801で完全に抑制され、3wFSでみられた消去障害(行動とシナプス伝達効率ならびにERK活性の変化)は、NMDA受容体部分作動薬DCSにより改善されたことより、消去過程はNMDA受容体を介していると考えられた。言い換えれば、3週令時におけるストレス負荷は、NMDA受容体の発現あるいは機能に影響を与え、結果的に情動神経回路網の形成不全が生じ、成長後の恐怖記憶制御機構の消去過程に障害を引き起こしている可能性がある。以上の結果から幼若期ストレス負荷によって生じた成長後の恐怖記憶制御機構の障害には、臨界期が存在し、脳部位特異的な情動調節の機能変化あるいは情動神経.回路網の形成不全により生じている可能性が強く不唆された。
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