研究概要 |
統合失調症の経過の中で脳の形態学的変化がどの時点でどの部位から生じるかは依然明らかではないが、明確な精神病症状が発現する以前の精神病発症危険状態(ARMS)より脳の形態学的変化が生じていることが示唆されている。ARMSから精神病が発症する過程で生じる脳の形態学的変化を脳MRIにより詳細に調べることが目的である。 初診時にARMSと診断された症例の脳MRIを撮像し、1年後に発症した群(発症群)と発症しなかった群(非発症群)で、初診時に既に形態学的な相違があるかを調べた。また、発症群と非発症群の各群の1年間の縦断的な形態学的変化を追いその相違を検討した。 本施設においてARMSと診断し研究参加の同意を得て追跡中の者のうち、本年度中に1年経過した者は17例であった。17例中、3例が精神病を発症していた。非発症14例と発症3例の間で、初回検査時においても1年後の検査時においても脳体積の有意な差は認めなかった。ARMSから精神症状の発現に至った3症例の1年経過前後の比較においても、脳の有意な形態学的変化は認めなかった。 今回我々の研究ではARMS17症例中3症例(17.6%)が精神病へと移行した。ARMSから精神病への移行率は、これまでの報告(Yung et al.,2006)と比して低かった。先行研究で報告されてきたような脳の形態学的な変化を見出すことはできなかったが、症例数は増える予定で結果は変化する可能性が残る。 早期介入が脳の形態学的変化に及ぼす影響が検討されており、最近の報告では早期に治療を開始した症例ほど、脳の形態学的変化が少なかったとの報告もある(Takahashi et al., 2006)。我々が対象とした全症例ともARMSに特化した専門外来や、リハビリテーション施設での介入を受けていたことから、こうした介入が精神病発症の回避や脳の形態学的な変化に何らかの影響を与えた可能性もあり検討予定である。
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