放射線により誘発される肺の傷害に対するTGF-βを標的とする予防あるいは治療の長期にわたる有効性と安全性を明らかにするために本研究を立案した。そのためにマウス実験モデルを用いて、放射線照射前にTGF-βの作用を抑制することにより、放射線照射によって生じるはずの肺傷害を形態的、機能的に予防することが可能か否か、また、放射線照射後にTGF-βの作用を抑制することにより、放射線照射によって既に形成された肺の線維化を形態的にも機能的にも改善させることが可能か否かを検討することを目的とした。本年度はその後半の検討、即ちTGF-βを標的として、放射線により既に誘発された肺の傷害を改善可能か否か検討した。前年度と同様に当初はTGF-βの作用を抑制するために以前の我々の実験でも用いたアデノウイルスベクター(AdTβ-ExR)の使用を計画したが、調達面の問題およびアデノウイルスを用いることによる遺伝子操作を原因とする種々の危険性を考慮し、同様の効果を期待できるTGF-βに対する中和抗体を代替えとして用いた検討を行った。現在、本年度予定の観察が最後まで終了していないが、現時点の実験結果では、TGF-βに対する抗体を用いてその作用を抑制することにより、放射線照射により生じた肺傷害を形態的、機能的に改善し得る可能性が示唆されている。来年度は更に長期の観察を実施し、その有効性と安全性を検討するとともに、放射線により誘発される肺の傷害に対するTGF-βを標的とする予防と治療の有用性を再確認する予定である。アデノウイルスベクターよりも平易に操作が可能な抗体を用いてTGF-βの作用を抑制することで放射線誘発肺傷害の予防や治療が可能であれば、胸部への安全な放射線治療を実施するための大きな一助となるものと思われる。
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