0.1%酸素濃度(酸素分圧約7.6mmHg)という低酸素下で培養中のPC-3ヒト前立腺癌細胞株の培養液に0.1mMの過酸化水素水を投与し、その直後に10GyのX線を照射したところ、X線単独照射によって誘発されるアポトーシスの倍以上の細胞がアポトーシスを起こした。また、その量は20%酸素濃度(酸素分圧約150mmHg)下でのX線誘発アポトーシスと比べても倍以上の細胞がアポトーシスを起こしていた。以上の結果より、低酸素下においても過酸化水素はX線誘発アポトーシスを効果的に増強することが明らかとなった。過酸化水素水が低酸素下に存在する癌細胞の放射線誘発アポトーシスを増強するメカニズムの一つとして考えられていたのが、過酸化水素水が分解することによって発生する酸素によって酸素分圧が上昇し、癌細胞が低酸素下から脱却するのではないかというものであったが、0.1mM過酸化水素水の投与では培養液中の酸素分圧は5~7mmHg程度の上昇に留まり、培養液中の酸素分圧は13~14mmHg程度であることから、この程度の酸素分圧では低酸素状態から十分に脱却できない(低酸素状態からの脱却には少なくとも酸素分圧が30mmHg程度になっている必要がある)。従って、X線誘発アポトーシスを増強するメカニズムとしては、投与した過酸化水素水が分解して発生した酸素によって酸素分圧が上昇し癌細胞が低酸素状態から脱却することによって放射線による感受性が高まるいわゆる酸素効果よりも、過酸化水素による抗酸化酵素の不活性化とリソソーム等の細胞内小器官障害が強く関与していることが示唆された。
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