研究概要 |
我々はニトロキシド化合物であるテンポールに低酸素環境でHIF-1aの発現を強力に増加させる作用を見いだした。この作用機序を応用した,テンポールにより低酸素細胞領域特異的に自殺遺伝子発現を増強する遺伝子治療は,放射線抵抗性である低酸素細胞領域を根絶するための戦略になると考えられる。これまでに、FcyFur融合タンパク(プロドラッグである5-FCを抗がん剤である5-FUへ代謝する酵素)をテンポールにより発現制御するベクターを用い、5-FCとテンポール,また低酸素環境を擬似的に引き起こすCoCl_2を添加した試料において最も高い殺細胞効果が視覚評価で確認された。今年度は、以下に示す3つの研究を遂行した。1)in vitroでの殺細胞効果増強の定量評価:コロニーアッセイ法を用いテンポールによる殺細胞効果の増強を定量評価した。5-FC添加群のCoCl_2とテンポール添加試料の生存率は,CoCl_2単独添加試料の生存率と比較し,約50倍のテンポールによるFcyFur遺伝子発現誘導を介した殺細胞効果の増強を示した。2)低細胞毒性ニトロキシド化合物の探索:テンポール単独添加試料の生存率は,5-FC添加,非添加群共に低い生存率を示し、これはテンポールの細胞毒性に起因すると考えられた。このためHIF-1αの発現を低酸素環境下で強力に増加させ,かつ細胞毒性の低いニトロキシド化合物の探索をおこなった。その結果,Carbamyl-PROXYLが低い細胞毒性で高いHIF-1α誘導活性を有することが判明した。3)腫瘍内でのHIF-1α発現増強の評価:マウス生体腫瘍内でのテンポールによるHIF-1α発現増強をin vivo光イメージングシステムを用い評価した。in vitroと比較しテンポールによるレポーター遺伝子発現誘導率は低い値を示したが,生体腫瘍内でもテンポールは発現誘導活性を有することが判明した。
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