本研究は、難治性癌に対する重粒子線治療よる転移抑制作用機序を明らかにし新しい治療法の開発の基礎作りを行うことが目的である。C3Hマウス扁平上皮癌SCCVIIにおいては、重粒子線照射により肺転移能が抑制される。高転移能を有するマウス扁平上皮癌NR-S1においても同様に転移抑制作用が認められた。一方重粒子線照射した移植腫瘍と異なる腫瘍を尾静脈から静注した場合は、転移抑制作用が極めて小さかった。これらのことから重粒子線照射により腫瘍特異的な免疫が賦活化されていることが示唆された。細胞障害性試験を用いたCTL/NK細胞の標的細胞に対する作用の解析では、重粒子線照射後に脾細胞を用いたCTL/NK細胞の細胞障害能が上昇していた。以上の結果から、重粒子線により細胞免疫が活性化していることが示された。その要因としては重粒子線が樹状細胞等の抗原提示細胞に標的癌細胞を認識しやすい状態に変化させていることが示唆された。そこで、骨髄細胞から調節した樹状細胞を用いて、重粒子線照射後1x10^6個を3回マウス腫瘍内に投与すると二次移植の生着抑制効果の増強が認められ、重粒子線照射にて樹状細胞が癌細胞を高率よく認識していることが示された。現在臨床で施行されている自己がん細胞感作樹状細胞ワクチン療法は、採取した癌細胞の溶解液を取り込ませ認識させる必要があるが、認識させるのに必要な癌細胞を採取するのは困難である。その代わりに重粒子線照射により生体内で癌細胞の認識を効率良く施行できる可能性が期待された。
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