研究概要 |
本研究で,動静脈吻合作製後早期に発生する内膜肥厚の一因が血管平滑筋細胞の集積にあり,この血管平滑筋細胞の集積がMMP2ノックアウトマウスでは有意に抑制されることから,吻合部組織でのMMP2発現上昇が内膜肥厚形成に関与することを確認した.また,動脈硬化性狭窄病変に対してバルーン血管拡張術やステント治療後の再狭窄では内皮障害を起点とする炎症性変化が生じ,血液中の骨髄由来細胞,特にマクロファージが深く関与することが明らかとなっているが,この内膜肥厚形成過程においてはマクロファージなどの骨髄由来細胞の関与は少ないことが明らかとなった,一般に血管内膜肥厚過程では肥厚内膜局所は低酸素になっていることが知られている.そこでMMP-2発現メカニズムの解明のためにヒト血管平滑筋細胞(SMC)を低酸素培養し免疫染色を施行した.血管内膜で発現するとされるIntegrinαv,β3,およびMMP-2はそれぞれ24時間の低酸素で発現が亢進することがわかった.またタンパクレベルの変化を見るためWestern Blotを施行したがこちらも同様に誘導され,さらに経時的に変化していた.遺伝子レベルでの発現の変化を見るため,SMCを低酸素化で培養し経時的に回収,tRNAを抽出し,real time PCRで評価した.タンパクレベルと同様に低酸素下でIntegrinαv,β3,MMP-2ともに遺伝子発現レベルでも上昇していた.さらにIntegrinではβ3のほうがαvよりも上昇が大きかった.またMMP-2の発現は低酸素で非常に大幅に上昇しており,Integrinβ3にやや遅れて発現していることが明らかとなった.これらの結果からIntegrinの発現とMMP-2の発現は関連性が示唆され,さらにIntegrin,特にβ3がMMP-2の発現を誘導している可能性が示唆された. 今後さらなるMMP2発現の分子メカニズムの解明により,新たな視点に立った内膜肥厚の治療が可能となり,バイパス術の治療成績向上へと結びつくものと考えている.
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